お侍様 小劇場

   皐月の颯風 (お侍 番外編 91)
 


 学校や会社などへとかかわる身には、様々な形で新しい生活の幕が切って落とされる春ではあるが、そろそろ皆がその足元を落ち着かせる頃合いといや、五月の半ば辺りだろうか。新しいお顔の増えた環境にも馴染み、それが進学や就職を果たした末の春ならば、生活のリズムも身につきだす頃合いで。はたまた、そういう余裕も無いまま、駆け出さねばならぬ環境もあるにはあって。春の始業と共に、新人でも容赦なく即戦力として放り出されるのは、何も社会人だけじゃあない。

 「春と秋に大会があるスポーツでは、
  春休みのうちに新人戦があってのそこで、
  新二年生が中堅どころのレギュラー取りをして、
  そうやって固められた陣営で大会に望むガッコが大半だそうだけれど。」

 中には、有力選手としてスカウトされて来たって背景あってのこと、ぴっかぴかの一年生でも春大会へ正選手として投入される場合があるそうで。

 「久蔵殿も、昨年度は一年生ではやばやと、
  都大会の個人戦の枠をもぎ取っておりましたものねぇ。」

 早くともせいぜいが団体戦への登用止まり…がセオリーなはずが、そりゃあ鋭い太刀筋を誇る榊先輩を僅差で破っての、正当なる実力勝負という選考の末に、その座を得たのが去年の話。………去年は二年じゃなかったかという、厳しいツッコミはナシですよ、お客さん。
(苦笑) この春の全国大会でも、堂々の優勝を収めた彼であり。後の予定はといえば、夏休みに催される都大会で、インターハイへの東京代表という参加資格を得るのを主要なそれとする他に、大小幾つかの大会へも参加する予定が…あるにはあるそうなのだけれど。

 「どうせあの甘えたれのことだから、
  余計な大会へは出渋っておるのではないのか?」

 冷静透徹、それはそれは落ち着き払った物腰と、一旦動き出したなら、一転、水でも斬れそうな鋭い太刀筋をもってして。どんな強豪であれ、どれほどの体格差のある相手であれ、巧みにして刹那という瞬殺にてあっさりと蹴手繰って来た天才剣士…だってのに。自宅ではそんな見方をされとります、あの鉄面皮の剣豪様。
(笑) かく言う勘兵衛もまた、ずば抜けた刀技や体術こなす身だからこそ、口先だけじゃあない、確たる実績添わせた上で断じているのではあるが、

 「勘兵衛様、何て言いようをなさいますか。」

 それを言うなら、こちらもこちらで。ずんと幼いころから、あの寡黙な剣豪殿の研鑽と成長を見守っていた七郎次が黙っちゃあいない。ましてや、あまり世間ずれもせずの生真面目な性分をしてもいる彼なので。どんな規模の大会でも真剣な研磨の場には違いないとか、高校生に差別無しとか。そんな文言でも飛び出すものかと思や、

 「久蔵殿が一人で遠出さえ出来ないようなお言葉は撤回して下さいませ。」
 「そっちかの。」

 お約束のネタはともかくとして。(こらこら)

 「兵庫さんでしたか、
  あの部長さんがそりゃあ上手に引き回して下さってますからね。
  案ずることはありませんて。」

 寡黙に加えて、余計な行動というものも極力しない。放っておくといつまでも“壁の花”で居続ける、もしかして無気力派かと思わすような剣豪殿だが。だからと言って練習が嫌いということでは無さそうなところはお見通し。たいそう腕の立つ部長さんが自ら、練習台にと立っていってやれば、あっと言う間にその白いお顔へ生気みなぎらせての、そりゃあおっかない刀を振るうという話、

 「岡本、くんでしたっけ。後輩さんが話してくれたんですよね。」

 五月の初めに武道館で催された春季全国大会の会場で、ばったり逢ったそのまま、自分は選手じゃないのでと、案内に立って下さった親切な子で。

 『榊部長と島田先輩の立ち合いが始まると、
  他の部員も手を止めて見入ってしまうんですよね。』

 特に奇を衒った手を繰り出す訳でもないし、超人的な反応や手腕を見せるということもない。だがだが、威容さえ伝わって来る堂々とした振る舞いや、切れのいい動作所作の美しくもある鋭さ、隙なぞ微塵もない頼もしさが滲み出す立ち合いからは、呼吸の合った舞いのような完成度まで感じられ。素早くも重い打ち込みや、それを躱すための流れるような身の捌きよう、飛び込んで来た突きを釣り込んでの払いのける、力の逃がしようなどなどへ、思わずのこと、溜息が洩れる声しかしなくなるとのことで。

 「だが。先の大会では、何とかいう我儘を通させてもらったのだろうが。」

 そのご当人が、既に二階で休んでいよう時間帯。相変わらずに辣腕振るわれておいでの会社から、お忙しいからこその今宵も遅くに戻られた惣領殿。それでも…それだというに、次男坊の活躍ぶりやその詳細、ちゃんと把握なさっていることへ、

 “…あらまあ。”

 新聞を読みながら…なんていう、片手間な会話に紛れさせつつという態度さえ。そうと判れば照れ隠しにしか見えませんよと感じ、熱燗をつけてきた恋女房がくすすと微笑ってしまった、実は家族想いの父上様。

  ??
  いいえ、何でもありませぬ。

 目顔で“何だ”と問われ、かぶりを振って見せた七郎次へ。微妙に憮然とした気配を滲ませた精悍なお顔が、だが、横を向きかけたそのぎりぎりのところでうっすらと頬笑んだの。見逃さなかったことをこそ隠しつつ、ほれと延べられ催促された猪口への一献をそそぎつつ、

 “そういや、高階さんの高校への潜入はどうなったんだろうか?”

 そ、そういや、そんなお話も持ち上がっておりましたかねぇ。
(苦笑)




       ◇◇◇



 勘兵衛が持ち出したちょっとした我儘というのは、その春季全国大会の後の、も少し小ぶりな規模の大会にて、久蔵が繰り出したという代物で。昨年の実績だけでも十分、全国レベルで認められているその実力もさることながら。金髪白面という日本人離れした容姿もまた異色なその上、立ち居振る舞いも優美。凛々しくも清々しいその風貌から、秘かに女性層のファンを集めての、剣道王子だのと一部で騒がれ出してもいる彼だったので。どんな伝手から話を得るのやら、どれほどの規模の大会であれ、女子高生から女子大生まで、妙齢のご婦人らが応援にと駆けつけるわ、取材の記者の数も増えつつあるわ。侍や戦国武将がブームだというのとはまた別枠の熱気を、高校剣道界へと齎しつつある、ある意味“救世主”でもあるのだが。

 「…。」

 ご当人にはそんな自覚もないようで、客席へ愛想を振るでなし、控室がある大会では、自分が出場する個人戦以外、フロアへ出て来ないこともザラ。そういうところがまたミステリアスだとか、姿を拝めるなんて希少だとか、今のところは“美形は得だ”という傾向の言われようをしている彼であり。そんなポジションにあった、どこかエキセントリックな彼だったものが、その大会においては、少々勝手の違う行動を取ったものだから、来合わせていたファンたちはどれほどのこと興奮したか。ブログやツイッターはたちまち熱気を帯びぃの、

 『ええ〜〜〜、ウソよぉ。』
 『小さい区大会だったからって、行くの見合わせたのにぃ。』

 今からじゃ遅いじゃんかと、女性ファンのみならず…硬派な実力ある剣豪たちまでも、その場に居合わせなかった方々すべてを大いに残念がらせた振る舞いというのが、

 「R高校、先鋒、島田久蔵くん。」

 個人戦にばかりの出場だった彼が団体戦に出るだけでも希少なその上、

 「先鋒って…?」
 「代表五人のうちの最初の選手だってことよ。」
 「しかもしかも、この大会は勝ち抜き戦だから、
  負けない限りは、ずっとの出づっぱり!」

 きゃあっという嬌声を発しかけた女生徒らが、係官に“静粛に”と睨まれて慌てて口元を覆ったが。そんな判りやすい形じゃあないまでも、選手たちから見学者、実行委員や関係者らを問わずのこと、あちこちで驚きのどよめきが大なり小なり上がっていたのは言うまでもなく。

 「これは…珍しいですな。」
 「さよう、あの島田くんが団体戦とは。」
 「個人戦のほうには榊くんが出るらしいが。」

 まさか、学内での選考試合で負けたのだろか。いや榊くんも、それは素晴らしい太刀筋をした剣豪だが。

 「だが、なあ…。」

 小さい大会だからと侮ってのことだろか。いやさ、顧問の先生が礼節に厳しい御仁だ、そんな不遜は させまいて。とは言うが…と、主催の皆様までもが一体どんな思惑でのこの布陣かと、小首をひねっておいでの中、区立の公会堂にて催された高校生大会はその幕を切って落とした。規模が小さいといっても、大きめな区の名前を冠にしているため、参加校も少なくはないし、全国大会やインターハイ、高校選手権大会への予選会には、必ず名前が上がる常連校も多々見られ。

 「R高校、第二試合場へ。」

 早速の第一試合とあって、広い構内に二面取られた試合場の片やへと、R高校の参加選手らが呼び出されたままに整列し。先鋒なのでと防具の面だけ今は外した格好、金の髪も手ぬぐいできっちりと包み込んだ姿がまた、凛と清冽な島田久蔵くんへ、場内の視線がぐいぐいと集まる。もう一試合も並行して進行しており、そちらの方の竹刀や足取りの物音、審判の声などが響いて来るにもかかわらず、こちらの空間だけ、微妙な静寂に包まれているのがありありとしており。

 「相手校は?」
 「さあ…えっと、武蔵野の方の学校らしいわよ。」

 区の大会としているが、参加資格は所謂オープン方式のそれ。都立高校の腕試しや肩慣らしの大会としても有名なそれなので、そんな地区の学校が出ていても、別段不思議な話じゃあない。そちらは三年生ばかりを揃えているようで、随分と不貞々々しいお顔の猛者らがずらりと居並んでおり。何が起因しての、どれほどの注目を集めている試合になったか、そのっくらいはさすがに承知か、その元凶にあたろう白皙の先鋒剣士を忌々しげに睨んでおいで。

 「あんなひょろっとしたモヤシ野郎がよ。」
 「でもなあ。
  S大付属のN沢や T高のE田さんが、
  こないだの大会であっさり負けたってのは知ってるだろよ。」
 「そんなもん出合い頭だ。」
 「そうそう、一回こっきりの立ち合いだから、
  そういう巡り合わせってのもあるさ。」

 くじ運が幸いし、直接当たっていないものだから、見た目の印象以上の覇力のようなものを拾えぬ相手へは、ついつい舐めたような見解しか沸かないのもよくあることで。ともすればそこいらの女生徒よりも美人で嫋やかな風貌や、背条こそしゃんとしているが、ほっそりした肢体であることへ、既に笠にかかったような態度を見せており。あれは結局は客寄せだ、問題は次峰の方かも知れぬから油断をするなと、こちらの先鋒を勢いよく送り出した彼らだったが、


  結果は、
  ある意味では たいそう痛快、
  ある意味からはたいそう単調で想定内なそれへと落ち着いたのもまた、
  わざわざ言うまでもなく。


 安定した蹲踞
(そんきょ)からすっくと立った痩躯は、細っこい腕や肩、小さな爪先、腰回りの印象から、ともすれば頼りなげな存在に映りもしただろが。それを打ち砕かんとし、力任せの瞬殺をと突っ込んで来た先鋒の三年生が、あっと言う間に相手の姿を見失う。独特の面をかぶっているのでそもそも視野は悪いのだが、それを退けても正面のどこにもその姿がないことへ、“え?”と素直に眼目をぱちくり瞠ったのとほぼ同時。ほんの一歩、脇へと身を寄せただけのことで翻弄された相手への、それは鮮やかな面打ち1本と、続いての仕切りではこちらから飛び込んだ格好の、目にも止まらぬ胴抜きとで、まずはの1勝を挙げた異形の剣豪。

 「う…っ。」
 「何だ、今の手は。」

 先にも誰ぞかが口にしていたように、この大会の団体戦は負けるまでどんどんと、同じ選手が勝ち抜いてゆく形式のそれなので。次峰が挑むも同じ白面の剣士殿。そちらは先鋒より多少は巧みさも持ち合わすか、いきなり飛び込んだりはせず、じりじりと相手の出足や呼吸を見ていたようだったが。

 「…っ。」

 絶妙な不意打ち敢行し、さっと身を沈めると、さりげなく小脇へと引いていた切っ先を、思い切り前へと突いて来たものの。あまりの突発事にどちらへ避けようかとの判断へも迷いが生じ、それが結局は逃げ道を塞ぐ…筈が、

 「…。」

 避けるなんてことはせず、突いて来た切っ先を何と真上へと跳ね上げた巧みさよ。迷いないまま真下へすべり込ませた竹刀の峰で、相手の得物をざあっと掬い上げた“間”のよさは、そのまま。それなり剛力者であったはずが、やすやすと双手を挙げての万歳をさせられているところへまでの波及をし。すれ違った相手の胴を、素早く体勢立て直しての横薙ぎに打ってのまず1本。そんな翻弄のされように、目が回りでもしたものか、続いた仕合いではどこか呆然としていた次峰殿。その態度でもって積極的にあらずとの注意を受けての自滅をしてしまったほどで。血気盛んな太刀筋が自慢だった先陣二人が畳まれたことで、

 「こ、これはまずいぞ。」
 「中堅、気を抜くな。」

 さすがに残りの顔触れも、見た目や何やで軽んじていい相手じゃ無さそうだと、遅ればせながら気づいたようだったものの。ならばと対策を練る暇もないまま、柳のように優美な体さばきに幻惑されるわ、それでいて打ち込まれると、全身が弾けるほどの痛みが襲う痛烈な太刀を受けるわ、たった一人であっと言う間に全員を畳んでしまった恐ろしさ。最後の大将へは、さすがに何合かの叩き合いともなったものの、誰の目にも明らかな、鮮やかなまでの 小手返し胴抜きで、二本目を取ってしまった寡黙な剣豪が。たたらを踏んだ挙句に膝をついた相手へと手を貸したそのついで。地声はこんなによく通るのかと、そこも意外だったいいお声で紡いだ一言が、

  ―― 雲居に、いやさ、顧問か部長へ言っておけ。
     春の大会、俺から彼奴を匿った、これは報いぞ。

 やはり隣の試合場の打ち合う声が聞こえるにもかかわらず、重厚とも言える押し出しのよさから こちらが勝
(まさ)ったか。そのお声は立ち合いを見守っていた関係者のみならず、そちら側に近かった観客席やら、主催者貴賓席やらへも十分に届いて。

 「……雲居?」
 「ああ、もしかしてこちらの学校の部員なのですよ。」
 「そういや、道場関係の大会で、
  それは目を見張る活躍した中学生が昨年話題になっていたが。」
 「そうか、その子がこの学校へ進学したか。」

 さわさわと交わされる囁きは、完敗を帰した学校の関係者たちへと降りそそぎ。少々頑迷そうな顧問だろう初老の教諭が、気まずそうなお顔でそっぽを向く。そして観客席では観客席で、彼もまた人目を引くそれはつややかな銀の髪をした小柄な少年が、唖然として白皙の剣士を見やっておいで。そんな彼を、こちらも視線の先へ見とめた兵庫が、戻って来た久蔵へかけたお声が、

 「ったく、1年たちに公式試合を経験させる機会を摘み取りおって。」

 その程度の把握だった大会だからこそ、無理を聞いたとのお言いようを垂れてから、

 「…そうか、あれが雲居龍魅
(たつみ)とかいう。」
 「…。(頷)」

 剣道という古風な武道は、礼節を重んじることを名目に年功序列が優先される学校が多く。実力重視を徹底した末に、下級生が代表となる部は 高校というレベルではむしろ珍しい。よほどに地元でも有名なとか、あまりに顕著な実力差でも見せぬ限り、学校の課外授業だということも手伝って、いい思い出作りが優先され、年長者から代表の枠が埋まってしまうのが当然の流れという学校も少なくはなく、

 「団体戦ならともかく。」
 「ああ。」

 春の大会の個人戦の方に出て来た代表は…誰だったかも覚えていないほどあっさりと姿を消した存在ではなかったか。学校単位で参加の大会だけに、そういう融通が優先されても仕方がなかろう、確かに 勝ちがすべてじゃあなかろうけれど。

 「関西の知人の道場で。」

 この春先、所用があって立ち寄った山科の佐伯の兄弟が通う道場で、あの如月さえ初戦で打ち負かしたという天才剣士だと紹介された。少女のように小柄でか細く。なのに、太刀筋の見事さは鮮烈俊才。久蔵も三本取りのうちの1本を、久し振りに奪われた手ごわい少年であり。住まいは東京だと聞いて、これほどの手練れならきっと大会にも出てくると思ったのに。それこそ、そうは見えないまでもわくわくと期待していたのに。だのにどうして出てこなんだか。本人の意思じゃあない、周囲の人間たちの思惑のせいと、そこはうすうす気づいてもいたものだから。言葉づらこそ匿ったなという言い回しをしてやったが、その実は“せっかくの勝負をふいにしおって!”と、この彼にすれば怒号にも等しいお言いようを浴びせた訳で。

 「いっそ、ウチへ来ればよかったのにな。」

 こちらのガッコはキャリアも多少は考慮しないじゃあないが、一昨年の兵庫殿の加入以降、バリバリの実力優先チームになってしまい。あちこちで催されるどんな大会へも自由に参加していいが、全国大会や選手権、インターハイに出たければ、誰にも文句を言わさぬ実力で頂点へ立てというのが基本方針となっており。なればこそ、部内の選考試合というのも頻繁に催されているのだとか。

 『体裁の整った決闘みたいなもんですよ。』

 女性的とも取れそうな線の細い風貌とは裏腹、そりゃあ肝の座った剣豪な部長さんが、七郎次へそんなあっけらかんとした説明をしたことがあり。よって、勝てば一年坊主でも代表につけるし、負ければ部長の兵庫であれ、個人戦の枠では出られない。そういう学校に馴染んでいたればこそ、尚更に、実力ある者がどうしてという憤怒を、こういう形で晴らしたかった久蔵だったらしくって。

 「これで、インターハイや秋の大会にも出て来ぬならば。」
 「いっそ攫っちゃいましょか♪」
 「何だ、なんで此処にいる、矢口。」
 「やだなあ、応援に来たんじゃないですかvv」

 昼から兵庫さんの個人戦でしょう? 明るい色合いに染め抜いた髪を女子のようにポニーテイルに束ねた弓道部のホープさんの乱入で、こちらの陣営はお笑いの方向へオチがついてしまったようだが、

 『あちらさんは、
  面子が潰されたのどうのと言い出しすお人が出ての、
  却って苛めとか起こんないでしょかね。』

 『それはないな。』

 そんなややこしい顛末招いた大会の話、何だ御存知だったのですねと意表をつかれた七郎次が。だったらというついで、彼なりに感じていた懸念のほうも零したのだが、それへは勘兵衛がきっぱり否と応じての曰く、

 『そこの顧問は儂も知っておる。
  頑固な爺さんだが、筋の通らぬことは嫌いなお人だからの、
  だからこその年功序列優先でもあったのだろが、
  それを“実力無視とは理にかなわぬ”と高校生からああもきっぱり指摘されては、
  何かしらの手立てを打ちこそすれ、そういう方向へは向かぬよ。』

 恥をかかされた部員の皆様にしたって、あの老師の弟子ならそこまでの根性曲がりじゃああるまいと。今のところは楽観しておいでの模様であり。そしてそして、久蔵殿ご本人としては、久々の好敵手の出現に、よほどのこと血が滾っておいでならしく、

 「………。」

 正式な大会でなければ手合わせ出来ぬ、個人的な立ち合いは認めぬとまで言うよな頑固爺い、もとえ指導者であるのなら。その口封じるために、この手で叩き斬ってやるというところまで画策中だという次男坊なのへ。早いとこ誰か気づいてやってくださいませぬか、大人の皆様。(いや、本当に……。苦笑)






   〜Fine〜  10.06.03.


  *高校生の剣道部って、
   どんなスケジュールで年間の大会を消化してるんだろか。
   春と秋の全国大会とインターハイと、
   あとは九州で催される大きいのとしか拾えなくて。
   (そういや、柔道部の活動を書くのへも似たようなことで困ったよな。)
   大会自体は、都道府県のや果ては区や市町村単位のもあるので、
   地域や、あとガッコのレベルによっても、
   参加する大会は千差万別だそうですが。

   なので、
   妙な時期に妙な大会が出て来ても、どうかご容赦くださいませです。


  *向こう様は“転生パラレル”をお書きの宮原様のところの、
   麗しの銀龍様に お兄様と弟さんが出て来られましたので、
   弟さんの方へちょこっとお越しいただきました。
   久蔵殿やこっちの顔触れには、
   特にどうという思い当たりもない出会いでしょうが、
   向こう様には、おおお あのお顔の人もいたんかという、
   微妙な感慨を招きそう。
(苦笑)
   とある外科医のせんせえへ、
   何か言いたそうな視線が集中して向きかねませんな。
   (詳細は『
翠月華』様へvv)

   ちなみに良親様は、
   前世では久蔵とは面識がなかったので、混乱はなかったと思われます。

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